IoTやAIの技術が進化するなか、さまざまな分野で多くの企業がDX推進に取り組んでいます。それは紙媒体を製品として取り扱う印刷業界でも同様です。業界がおかれている現状と抱える課題からも、DXは必要とされています。本記事では、印刷業でDX推進が必要とされる理由、印刷業でDXを成功させるためのポイントなどを紹介します。
印刷業界の現状
印刷業界の現状について紹介します。
印刷業界の概要と定義、市場規模
印刷業とは、印刷物の製作や取引を行う産業です。印刷製品は、下記のように用途別に大きく分類されます。
- 商業印刷:ポスターやカタログなど
- 出版印刷:雑誌・書籍など
- 事務・帳簿印刷:伝票などの印刷から、パンチ・ミシン目・ナンバー印刷などの加工
- パッケージ印刷:梱包資材やシュリンクラベルなど
一般社団法人日本印刷産業連合会がまとめている「印刷産業Annually Report Vol.2 2023年」によると、2023年度における印刷産業の出荷額は4兆6,630億円でした。
1991年をピークに、市場は縮小傾向にあります。
参考:印刷産業Annually Report Vol.2 2023年 |一般社団法人日本印刷産業連合会
印刷業界が抱える課題とその解決策となるDX
印刷業界は、下記のような課題を抱えています。
- 紙媒体の減少による市場縮小
デジタルメディアの普及により紙媒体が不要になったことで市場が縮小し、生き残りが難しくなっています。
- 顧客ニーズの変化
顧客は多品種・小ロット、さらに低価格であることを望む傾向にあり、それに対応する必要があります。
- 環境問題への配慮
紙媒体の製造行程に排出されるCO2が問題視されており、環境への配慮が求められています。
- 人材不足
少子高齢化の影響による労働力人口の減少で、人材の採用が困難となっています。
以上のような課題を解決するには、DXの推進が不可欠です。
DXとは、デジタルテクノロジーを活用して業務プロセスを効率化・最適化したり、これまでにない新しいサービスを展開したりするなど、自社や顧客に対して新しい価値を創出することです。
印刷業でDXを推進する際に、まず考えられるのはデジタル印刷機の導入です。社会のデジタル化への流れに対応するため、製造工程のデジタル化は避けられないでしょう。製造工程のデジタル化が実現すると、「多品種・小ロット・低価格」での提供や、環境への配慮、人材不足問題への対応などの実現にもつながります。
また、受注、管理、営業などのさまざまな業務プロセスの効率化も必要です。それにより生産的なコア業務にリソースを割くことが可能になり、これまでにない新しいサービスの展開も期待できます。
印刷業におけるDXへの取り組み例
印刷業でDXを進めるには、次に紹介するように、特定の業務プロセスのデジタル化(デジタイゼーション、デジタライゼーション)から進める方法が考えられます。
DXデジタイゼーション、デジタライゼーションの違いについては、「【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで」、「デジタイゼーションとは?デジタライゼーション・DXとの違いや具体例を解説」をご覧ください。
- 製造工程の効率化
課題である多品種・小ロットニーズに対応するため、デジタル印刷へ転換します。デジタル印刷機に加え、自動面付けシステム 、カラーマネジメントシステムなどの導入が必要です。
デジタル印刷への転換は、生産性・収益性の向上だけでなく、環境への負担の軽減にもつながります。また、職人やベテラン社員に依存していた業務の属人化を防止でき、限られた人材でも品質維持が可能になります。
- 管理業務の効率化
IoTやRPAの導入により、印刷物の出荷管理や発送業務などの効率化が可能です。印刷業では検品・出品業務、伝票発行、納品書との突合など、手間を必要とする作業が日々多く発生しています。これらの業務を効率化できれば、生産性・収益性の向上につながることが期待できます。
また、AI活用による需要予測で在庫管理を最適化し、仕入れや製造における無駄を排除することも可能です。
特定の業務や部門の業務効率化が進んだら、社内全体の業務効率化につなげ、次に説明するように、市場への新しい価値提供へつなげていきます。
- データ収集・分析
IoTやAIなどの活用により、社内で作成したデータや取引先からの共有データ、顧客情報などの大量のデータの収集・分析・管理が可能になります。データは、営業・マーケティング戦略の立案に役立てられます。自社での活用だけでなく、新たなサービスとして、取引先へ展開することも可能です。また、印刷機の稼動状況を収集・分析することで、戦略的な製造計画の立案もできます。
- 顧客体験の創造
例えば、見積作成、商談、印刷データの入稿などのオンラインシステム化を進め、AIによる自動校正により顧客の負担を減らすことで取引しやすい環境を整えることで、優れた顧客体験を創造できます。
- 新たなビジネスモデルの創造
デジタルテクノロジーにより、今までの紙媒体にこだわらない電子出版や、3Dプリントなどの新しいビジネスを実現します。また、データ分析結果のマーケティング戦略への活用、デザインの自動生成など、これまでにはなかったビジネスを創造できる可能性もあります。
印刷業でDX推進を成功させるポイント
印刷業でDX推進を成功させるために押さえておくべきポイントを紹介します。
DXの目的とビジョンを明確にする
DXは情報システム部門だけでなく、経営層も含め、全社として積極的に取り組む必要があります。認識を共有するために、DX推進の目的とビジョンを明確にしなければいけません。DX実現に向けて製造工程や管理業務に新しいシステムを導入することになれば、現場の社員も当然巻き込むことになります。そのため、明確化したDXの目的とビジョンは全社員へ共有します。その際には、印刷業界を取り巻く厳しい環境についても伝え、社員の理解を得られるように努めましょう。
現状の業務プロセスの評価と課題を特定する
印刷や管理の工程など、現状の業務プロセスを整理し、無駄な部分がないか、時間がかかりすぎている工程はないかなどを評価し、課題を特定します。
自社の課題解決につながるシステム・ツールを導入する
現在は、業務効率化、情報共有、データ収集・分析の自動化など、DX推進に役立つさまざまなシステム・ツールが提供されています。そのなかから、デジタル印刷機をはじめ、自社の課題解決につながる製品を慎重に選定します。
社員を教育する
DX推進にはDX人材の確保が必要です。外部より人材を採用する方法もありますが、労働力人口の減少が進むなか、新しく採用をするのは困難です。また、DX人材はDXに関する知識だけでなく、社内業務や印刷業界にも詳しい必要があります。新規に採用する社員と既存社員のそれぞれに必要な知識やスキルを習得させるために、研修やトレーニングを実施します。
DX人材について詳しくは、「DXを推進するために必要な人材と自社でDX人材を確保するためのポイント 」をご覧ください。
印刷業でもDXにより得られるものは大きい!積極的に推進しよう
紙媒体が減少し、顧客のニーズが変わってきていることで、印刷業界も厳しい状況におかれています。これからも生き残っていくためには、DXを積極的に推進し、新しい価値を市場に提供していかなければなりません。しかし、いきなり大がかりなDXへの取り組みは難しいという場合は、本記事で紹介したとおり、まずはデジタイゼーション、デジタライゼーションによる業務効率化から着手し、本格的なDX推進へとつなげていくのがスムーズかもしれません。
「印刷業名人」は紙器・パッケージ印刷業向け業務管理システムとして、印刷業のデジタイゼーション、デジタライゼーションをサポートします。リアルタイムで情報を共有してロスやクレームを削減し、受注から回収までの煩雑な事務作業を徹底的に省力化することで業務の生産性を高めます。DX推進のために導入するシステム・ツールでお悩みの場合は、ぜひ選択肢のひとつとしてご検討ください。